【音楽理論No.5】ドミナントはなぜGとBなのか?の数学的説明

こんにちは。@ackcvanilla1(Rana_34164)です。

コード進行についてのお話をするときに、必ず出てくるのがコードの役割として、各コードにトニック、サブドミナント、ドミナントの3つが割り当てられます。だいたいの説明では、まずこれを丸暗記しちゃって、その先の話に進むことが多いです。

ドミナントとは、不安定などと表現され、不安定から安定(トニック)へ進行する動きは一つの音楽的区切り(句読点のような役割)を果たします。音楽は、基本的にはこの不安定と安定を行き来しながら、句読点をどう打つかという話とだいたい同じになります。

本記事では、いつも丸暗記していた「なぜドミナントはGとBなのか?」というところについて、数学的に説明してみようと思います。

数学的準備

ある音 f_0 を起点としたオクターブの区間[f_0,2f_0]を,ピタゴラスの方法で13個に離散化したピタゴラス音律final ver

{\mathbf f}_{12}=\{f_0,~f_1,~f_2,\ldots,~f_{11},~f_{12}=2f_0\}

を構成する.

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さらに,ピタゴラス音律 {\mathbf f}_{12} から,メジャースケール(部分集合)

{\mathbf s}_8=\{f_0,~f_2,~f_4,~f_5,~f_7,~f_9,~f_{11},f_{12}=2f_0\}

を構成し,各音のオクターブを次々ととって並べた音列

{\mathbf s}=\{f_0,~f_2,~f_4,~f_5,~f_7,~f_9,~f_{11},~f_{12}=2f_0,~f_{14}=2f_2,~f_{16}=2f_4,\ldots\}

を考える.このとき,メジャースケール{\mathbf s}_8のダイアトニックコード{\cal C}_dは以下のとおり.

{\cal C}_d=\{{\mathbf c}_1,{\mathbf c}_2,\ldots,{\mathbf c}_8=2{\mathbf c}_1\},

{\mathbf c}_1=\{f_0,~f_4,~f_7,~f_{11}\},

{\mathbf c}_2=\{f_2,~f_5,~f_9,~f_{12}\}=\{f_2,~f_5,~f_9,~2f_0\},

{\mathbf c}_3=\{f_4,~f_7,~f_{11},~f_{14}\}=\{f_4,~f_7,~f_{11},~2f_2\},

{\mathbf c}_4=\{f_5,~f_9,~f_{12},~f_{16}\}=\{f_5,~f_9,~2f_0,~2f_4\},

{\mathbf c}_5=\{f_7,~f_{11},~f_{14},~f_{17}\}=\{f_7,~f_{11},~2f_2,~2f_5\},

{\mathbf c}_6=\{f_9,~f_{12},~f_{16},~f_{19}\}=\{f_9,~2f_0,~2f_4,~2f_7\},

{\mathbf c}_7=\{f_{11},~f_{14},~f_{17},~f_{21}\}=\{f_{11},~2f_2,~2f_5,~2f_9\}

{\cal C}_dのうち,ドミナントは{\mathbf c}_5{\mathbf c}_7である.

協和と不協和

ピタゴラス音律final verで構成された周波数列{\mathbf f}_{12}における音 f_0 について,一緒に鳴らした時に最も協和する音と最も不協和する音を考える.ピタゴラスの,協和する音ほど2音の周波数比が簡単になるという経験より,上表をみると,最も協和する音はf_7,最も不協和する音はf_6である.

協和する2音の関係は,\frac{f_7}{f_0}=1.5という関係となっており,不協和する2音の関係は,\frac{f_6}{f_0}=\frac{729}{512}=1.424という関係になっている.

平均律でピタゴラス音律final verを近似

さて,平均律 \overline{{\mathbf f}_{12}}=\{\overline{f_0}=f_0,~\overline{f_1},\ldots,~\overline{f_{11}},~\overline{f_{12}}=2f_0\}を考える.

\overline{f_i}=\displaystyle 2^{\frac{i}{12}}f_0i=0,1,\ldots,12

このとき,ピタゴラス音律final verにおいて最も協和する2音といわれていた音を,平均律でとった場合の周波数比は,\frac{\overline{f_7}}{\overline{f_0}}=2^{\frac{7}{12}}=1.498となり,最も不協和する2音といわれていた音を,平均律でとった場合の周波数比は,\frac{\overline{f_6}}{\overline{f_0}}=2^{\frac{6}{12}}=1.414となる.よって,平均律でみなしても,協和と不協和の関係は崩れないといえるため,ピタゴラス音律にかえて平均律で近似して以降述べる.なお,現代の楽器はそのほとんどが平均律で調律されるため,近似の妥当性もある程度担保される.

任意の2音が協和または不協和であるための条件

平均律\overline{{\mathbf f}_{12}}において,任意の2音\overline{f_i},\overline{f_j} (i \geq j)をとったとき,その周波数比は\frac{\overline{f_i}}{\overline{f_j}}=2^{\frac{i-j}{12}}と表せる.このとき,以上の議論より,2音が協和であるための条件は,i-j=7であると同値である.また,不協和であるための条件は,i-j=6と同値である.

以上より,平均律で構成したメジャースケールのダイアトニックコード{\cal C}_dの7つのうち,i-j=6の関係を満たすコードは,{\mathbf c}_5{\mathbf c}_7の2つに定まる.不協和な音は,不安定さをもたらすので、すなわちそれはドミナントである.