【音楽理論No.3】ピタゴラス音律と4度圏表についての数学的説明

こんにちは。@ackcvanilla1(Rana_34164)です。

以前、【音楽理論No.2】ピアノの白鍵と黒鍵の並び順はどのようにして決まったのか?等の数学的説明という記事で、ピタゴラス音律(もどき)について紹介しましたが、やはり一通りはやったほうがよいと思うので、

  • ピタゴラス音律の作り方の過程
  • ピタゴラス音律が一目で理解できる4度圏表

について説明したいと思います。

ピタゴラス音律Ver.1

【音楽理論No.2】ピアノの白鍵と黒鍵の並び順はどのようにして決まったのか?等の数学的説明で説明した,ピタゴラスの音の分割方法で作った最初の表を再掲する.

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この表は,12音作りきった後に,音の低い順に並べ替えた表にしているが,実際の音の生成順に記すと,

 f_0=1 \xrightarrow{\times \frac{3}{2}} f_7=\frac{3}{2} \xrightarrow{\times \frac{3}{4}} f_2=\frac{9}{8} \xrightarrow{\times \frac{3}{2}} f_9=\frac{27}{16} \xrightarrow{\times \frac{3}{4}} f_4=\frac{81}{64}

 \xrightarrow{\times \frac{3}{2}} f_{11}=\frac{243}{128} \xrightarrow{\times \frac{3}{4}} f_6=\frac{729}{512} \xrightarrow{\times \frac{3}{4}} f_1=\frac{2,187}{2,048} \xrightarrow{\times \frac{3}{2}} f_8=\frac{6,561}{4,096}

 \xrightarrow{\times \frac{3}{4}} f_3=\frac{19,683}{16,384} \xrightarrow{\times \frac{3}{2}} f_{10}=\frac{59,049}{32,768} \xrightarrow{\times \frac{3}{4}} f_5=\frac{177,147}{131,072} \xrightarrow{\times \frac{3}{2}} f_{12}=\frac{531,441}{262,144}\neq 2(=2f_0)

となる.そもそも音の範囲が[1,~2]に収まっていないのでオクターブの分割として破綻しているが,これを円を用いて表すと,下図となる.

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ピタゴラス音律Ver.2

ピタゴラス音律Ver.1の最大の欠点「そもそもオクターブに収まってない」を解決するため,f_{12}=2f_0としてしまう.このとき,f_5からf_{12}=2f_0f_{12}=2f_0=\frac{262,144}{177,147}f_5 \neq \frac{3}{2} f_5となる.この状態を円で表すと下図となる.

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また,表にまとめると下表となる.(【音楽理論No.2】ピアノの白鍵と黒鍵の並び順はどのようにして決まったのか?等の数学的説明でも掲げた表と同一)

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ピタゴラス音律Ver.3

ピタゴラスVer.2も立派な音律だが,ピタゴラスが提唱していることは「心地よく響き合う音は簡単な整数の分数で書けている音たちであるはずである」ということだったから,これを追求する.f_5の音はとても難しい整数の分数となっているため,この改善を試みる.2音の整数比が 2:3の場合が最もよく響き合うこと,オクターブの音は同じに聴こえるということより,f_5について,f_5:f_{12}=2:3を満たすように取ればよい.よって,f_5=\frac{2}{3}f_{12}=\frac{4}{3}f_0とすればよい.これを円で表すと下図となる.

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これによりf_5f_{10}の関係を簡単な整数比で表すことが出来なくなったが,もっとも難しい分数で書かれていたf_5は簡単な分数で表すことができた.表にまとめると下表となる.(【音楽理論No.2】ピアノの白鍵と黒鍵の並び順はどのようにして決まったのか?等の数学的説明でも掲げた表と同一)

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ピタゴラス音律final ver

Ver.3における円の図を見てみよう.なぜ難しい分数が出てくるか?それはかけ算される\frac{2}{3}とか\frac{4}{3}がたまってくるからである.逆時計回りで考えていくと12時から向かって1時にたどり着くまでに難しい分数になってしまうことは自明である.よって,もっとも綺麗に聴こえる整数比2:3を時計回りで取っていけばよい.なお,どちら周りで行っても最も遠い音はf_6なので,そこにたどり着いた時点でやめるとする.

まず,逆時計回りでとると,ピタゴラス音律Ver.1の考え方より,

 f_0=1 \xrightarrow{\times \frac{3}{2}} f_7=\frac{3}{2} \xrightarrow{\times \frac{3}{4}} f_2=\frac{9}{8} \xrightarrow{\times \frac{3}{2}} f_9=\frac{27}{16} \xrightarrow{\times \frac{3}{4}} f_4=\frac{81}{64}

 \xrightarrow{\times \frac{3}{2}} f_{11}=\frac{243}{128} \xrightarrow{\times \frac{3}{4}} f_6=\frac{729}{512}

となり,時計回りでとると,ピタゴラス音律Ver.3の考え方より,

 f_0=1 \xrightarrow{\times \frac{4}{3}} f_5=\frac{4}{3} \xrightarrow{\times \frac{4}{3}} f_{10}=\frac{16}{9} \xrightarrow{\times \frac{2}{3}} f_3=\frac{32}{27} \xrightarrow{\times \frac{4}{3}} f_8=\frac{128}{81} \xrightarrow{\times \frac{2}{3}} f_1=\frac{256}{243}

となる.円で表すと下図となる.

 

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なお,この図を4度圏表という.なお,表にまとめると下表となる.

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4度圏表は考察の価値あり!

対称性や規則性等,4度圏表は十分に考察の価値がある.自分なりに色々といじってみて,新たな発見をしてみると面白いと思われる.

4度圏表は重要

4度圏表は、今後のコード進行の理論等で大いに役立つため,暗記しておくのが望ましい。

4度圏表の注意

ピタゴラス音律が流行って4度圏表が完成した後に、純正律や平均律など、新しい音の周波数比を持つ律が様々に作られた。これらの律に対しても、音の距離を図るためにこの4度圏表を用いている。律によっては、隣り合う2音の周波数比が2:3に必ずしもなっていない(というよりもほとんどそうならない)のに,「響きがよい音」という表現を使うことがある。このことに注意されたい。